The Figure in the Carpet

短編小説を読んだから、その感想を書いた

ジャン・パウル : 天堂より神の不在を告げる死せるキリストの言葉

概要 「イエス様、わたしたちのお父様はいらっしゃらないのですか?」──するとキリストは涙を流しながら答えた。「わたしたちは、わたしもお前たちもみんなみなし子なのだよ、わたしたちにお父様はないんだよ」 「わたし」(作者かな?)は、このフィクショ…

ディーノ・ブッツァーティ : 階段の悪夢

概要 語り手の「私」は、なにやらデザイン会社のアーティスト、あるいはエンジニア風の話し方をする。注文主は「夜の精」で、扱っている商品は「悪夢」。悪夢のレパートリーの中で、とりわけ「階段の夢」は評判がいい、と私は誇らしげに述べる。 では導入事…

『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』より第5話、第6話

概要 第5話 ティル・オイレンシュピーゲルの母親は息子が手に職をつけようとしないことを叱る。息子はだんまりを決め込む。が、母親は小言をやめない。「家にはパンがないんだよ」。するとオイレンシュピーゲルは、貧乏人は聖ニコラスの日には立派に断食でき…

『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』より第3話、第4話

概要 第3話 ティル・オイレンシュピーゲルは綱渡りの練習をする。最初は家の屋根裏部屋で練習をしていたのだが、それを見た母親に激しく叱られる。しばらくして今度は家の裏手の高窓からザーレ川をはさんで対岸まで綱を張る。それを見た若者たちが何が起こる…

『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』より第2話

概要 3歳のオイレンシュピーゲルは「自分は悪たれではない」ことを証明するために父親と一緒に馬に乗る。 父親が前、オイレンシュピーゲルが後ろに乗った場合……オイレンシュピーゲルは通行人に対して尻をむき出しにする(父親にはそれが見えない)。それを見…

クルイロフ寓話集より「パルナッソス」「神託を授ける神」

概要 「パルナッソス」 ギリシアの神々の地位が凋落する。神々は神々の座から引きずり降ろされる。そうなると……神々は様々は迫害を受けることになる。それは神々の神殿が修理されず、生贄が供えられないだけではない。「神々が何を言っても、ことごとく嘲笑…

ルートヴィヒ・ティーク : 金髪のエックベルト

概要 通称「金髪のエックベルト」と呼ばれる騎士が妻ベルタと二人でハールツのある地方に住んでいた。二人の夫婦仲は良かったが、この二人には子供が恵まれなかった。また、エックベルトには「自分がいちばん好む考え方とほぼ同じ考え方をする」友人フィリッ…

アンブローズ・ビアス : 猫の船荷

概要 マルタ島を出航したメアリー・ジェイン号は大量のマルチーズ猫を積荷していた。送り状によれば猫の総数は127,000匹。猫たちはどさっと船倉に落とし込まれた。ある航海士が猫たちは喉が渇くだろうと大量の水をポンプで船倉に送り込んだ。そのため下積み…

アンブローズ・ビアス : 底なしの墓

概要 「ぼく」の父親が突然(健康だったのに)夕食後に死んだとき、母親は「私が手をくだしてこうなったわけではない」と子供たちの前で強調した。「もちろん、死んでよかったと思っているけど」。 しかし心配性の母親は、このような突然の神秘的な死の場合…

ミュリエル・スパーク : 人生の秘密を知った青年

概要 幽霊はタンスのいちばん上の引き出しからひゅるひゅると出てきて、ふわっと立ち上がる。高さはだいだい1メートル半。古いマンガに出てくる典型的なやつだ。それがベンという青年のところに毎夜、あるいは毎朝、姿を見せるという。単に姿を見せるだけで…

ミュリエル・スパーク : 首吊り判事

概要 新聞は死刑の宣告を下したサリヴァン・スタンリー判事の表情を見逃さなかった。まるで幽霊を見たかのような顔であり、明らかに動揺を見せていた、と書く新聞もあった。死刑の宣告が重荷だったのではないか。死刑制度に疑義があるのではないか、と憶測が…

リチャード・ライト:アフリカから来た男

概要 画家のジョン・フランクリンと妻のエルシーはアフリカを自動車で旅行している。なぜアフリカなのか? それはエルシーが、ジョンと彼の愛人オディル・デュフィールを引き離そうと、パリから遠いこのアフリカの地へ夫を連れてきたのだった。どうやらエル…

リチャード・ライト : 何でもやれる男

概要 ーーカール、だ、だれが見ても、あ、あなたが男ってことは分かるわよ。 ーーハッハッ。そんなことはない、ルーシー。ぼくはちゃんと風呂場の鏡で確かめたんだ。ぼくがドレスを着ると、どこにでもいる黒人女の炊事婦にそっくりだ。どっちにしたって、誰…

アンブローズ・ビアス : 哲学者パーカー・アダソン

概要 捕虜君、と南軍のクレイバリング将軍が呼んだ北軍のスパイはパーカー・アダソンと名乗った。将軍の尋問に対し、捕虜はこの場に相応しくないユーモアと機知に富んだ受け答えをする。敵軍のスパイなら、死罪になることは当然自覚しているはずなのに、だ。…

ミュリエル・スパーク : 捨ててきた娘

概要 「私」は職場を出て、家路を急ぐ。ただ、何かをし忘れた気がする。それが何だかわからない。バス停では誰も私に目をくれない。自分が透明人間になったように思う。なぜなら、 周囲の視線が私を突き抜けていくばかりか、歩行者が私の体を通り抜けていく…

G・K・チェスタトン : 共産主義者の犯罪 ~ 『ブラウン神父の醜聞』より

概要創設が中世期まで遡る伝統あるマンディヴィル大学で二人の男性が殺された。二人はアメリカ人とドイツ人の資本家だった。二人は由緒あるマンディヴィル大学に経済学部を新設するために大学を訪れ、多額の寄付を申し出、学寮内を見学していたのだった。警…

ミュリエル・スパーク : 上がったり、下がったり

概要 彼は21階からエレベーターに乗ってくる、と彼女は確かめた。同じように彼女は16階にある会社に勤めている、と彼は確認した。二人の男女はエレベーターの中で互いを意識する。その階のどの会社に勤めているのか、どこに住んでいるのか、髪の毛は染めてい…

大江健三郎 : 空の怪物アグイー

概要 アグイーねえ。それはわたしたちの死んだ赤ん坊の幽霊でしょう? なぜアグイーというのかといえば、その赤ん坊は生まれてから死ぬまでに、いちどだけアグイーといったからなのよ。 大学生の「ぼく」は、銀行家の息子で前衛作曲家Dの付添いというアルバ…

アンブローズ・ビアス : 豹の眼

概要なぜ結婚をしてくれないのか、とジェナー・ブレイディングはアイリーン・マーロウに訊く。私は正常な人間ではないから、とアイリーンは応える。私は異常をきたしているの、それは……。 アイリーンの告白を「筆者」が代わって書き記す。アイリーンの父親チ…

アンブローズ・ビアス : 良心の問題

概要 南北戦争の最中、北軍の駐屯地で南軍の密偵が拘束された。密偵の名前はドレーマー・ブルーン。その人物の正体を見破ったのは北軍のパロル・ハートロイ大尉だった。実はブルーンとハートロイ大尉の間には因縁めいた話があった。かつて北軍兵士としてそれ…

リチャード・マシスン : こおろぎ

概要 「あれを聞きましたか?」とジョン・モーガンという小柄な男が休暇で湖にやってきたジーンとハルのところへやってくる。「あれ」とはこおろぎの泣き声のことだった。ジョン・モーガンによれば、こおろぎが翅を擦り合わせて出す音は、暗号メッセージにな…

大江健三郎 : アトミック・エイジの守護神

概要 作家である「ぼく」は、一人の「中年男」にただならぬ興味を抱く。その中年男は魯迅の肖像に見られるような黒い詰襟の服を着て、顔は海驢(アシカ)を思わせる。同行した地方紙記者は、その中年男に関して《アトミック・エイジの守護神》というタイトル…

リチャード・マシスン : 男と女から生まれて

概要 某月某日──今日、明るくなるとお母さんはぼくをへどがでるものと呼んだ。おまえは忌まわしいものなのよといった。 「ぼく」は虫を食べる。歩くとぴしゃぴしゃ音がする。「ぼく」はお父さんに殴られ片腕からしずくを床に巻き散らす。這い降りてくる黒蜘…

F・スコット・フィッツジェラルド : カットグラスの鉢

概要 ”旧石器時代があり、新石器時代があり、青銅器時代があり、そして長い年月のあとにカットグラス時代がやってきた。” イヴリンがハロルド・パイパーと結婚すると言ったとき、カールトン・キャンビイという青年が大きなカットグラスのボウルを彼女に贈っ…

G・K・チェスタトン : 孔雀の家 ~ 『詩人と狂人たち』より

概要 画家であり詩人であるガブリエル・ゲイルの注意を引いたのはロンドン郊外の住宅地にある家だった。家を覆うような山査子の茂みに芝生の庭があった。その庭には孔雀がいた。なぜ、孔雀がいるのか?田舎にある貴族の屋敷なら孔雀がいてもおかしくはない。…

アンブローズ・ビアス : 板張りの窓

概要 かつてマーロックという男が森の奥深くにある丸太小屋に住んでいた。1830年代のアメリカで、西へ西へと危険や窮乏との出会いを果たしてきた者たちの一人だった。マーロックには東部で結婚した妻がいた。彼女も、夫と共に、危険と窮乏に、明るく元気に立…

アンブローズ・ビアス : ぼくの快心の殺人

概要 「ぼく」は母親を惨殺した。逮捕され、裁判に掛けられている。弁護士に従ってぼくは次のような陳述をした(そのおかげでぼくは無罪を獲得した)。 ぼくの父は追い剥ぎ業を営んでいた。事業は繁盛していた。ある日、巡回説教師がやってきて宿賃替わりに…

『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』より第1話

概要 キリスト生誕から1500年後、農民の子として生まれた編著者は、前書きで次のように記す。その昔ティル・オイレンシュピーゲルと呼ばれていた活発で機知に富み、抜け目のない若者が、ドイツやその他の地で「しでかしたこと」を集めて書き記すように依頼さ…

リチャード・マシスン : 生存テスト

概要 息子は父親の勉強を手伝っていた。80歳の父親は明日テストに臨む。息子であるレズは、父親のトムが、どうしても連続した数字を覚えられないことに苛立っていた。父親にはテストをパスして欲しい、そう思いレズの心は逸っていた。レズの子供たちは寝てい…

アンブローズ・ビアス : 犬油

概要 「ぼくはボファー・ビングズという男だが、少々卑しい稼業をしていた正直な両親の下に生まれた」。その「ぼく」が、父親と母親がどうして死んだのか、そしてどのように死んだのかを淡々を語る。淡々と。他人事のように。 ぼくの父親がやっていた卑しい…