The Figure in the Carpet

短編小説を読んだから、その感想を書いた

ミュリエル・スパーク : 警官なんか嫌い

概要

「警官嫌いを直すなら、警察に行くのがいちばんだよ」と叔母に言われた青年は、いやいやながら警察に行った。彼は警察が嫌いだった。ちょうど知り合いの女の子が「郵便局嫌い」だったのと同じように。

青年が警察署に行くと、番号で呼ばれ、手錠を掛けられ、独房に入れられた。「言語を絶する事件」が起こり、彼はその犯人なのだという。かくして裁判が開かれ、青年は「言語を絶する罪」により裁かれる。 

言語に絶する以上、言語にはできないゆえ、証言は認めることができない。 

彼は有罪になった。彼の警察嫌いは直らない。

 

感想その他

解説にもそう書いてあるし、僕もそう思った。このミュリエル・スパークの短編『警官なんか嫌い』に言及する多くの人は、おそらく、フランツ・カフカみたいな作品──とりわけ『審判』みたいな──だと記すだろう。ただ、これは、たまたま主人公(?)の青年が「警官嫌い」だったからで、これが「郵便局嫌い」だったら、あるいは青年が何か他の「○○嫌い」だったら、もしかすると、カフカの『審判』との類似点よりは相違点の方に目が行くかもしれない。そして思う。これこそまさしくミュリエル・スパークの小説だ、と。

翻訳で読んでいるが、ここでのミュリエル・スパークの筆致は軽快だ。「言語に絶する事件」をめぐって展開するのに、くっきりとしたイメージがつかめる。独房の何百匹というネズミや、陪審員は全員が警察官で全員が跳ね上げ眼鏡を掛けているという超自然的なイメージも楽々と想像できる。その超現実主義的なイメージから、カフカの小説だけでなく、Duran Duran の《Is There Something I Should Know?》のPVも読みながら思い出した。

 

データ

The Thing about Police Stations

木村政則 訳、『バン、バン! はい死んだ』(河出書房新社)所収 

バン、バン! はい死んだ: ミュリエル・スパーク傑作短篇集

バン、バン! はい死んだ: ミュリエル・スパーク傑作短篇集

 

  

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