The Figure in the Carpet

短編小説を読んだから、その感想を書いた

『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』より第2話

概要

3歳のオイレンシュピーゲルは「自分は悪たれではない」ことを証明するために父親と一緒に馬に乗る。

父親が前、オイレンシュピーゲルが後ろに乗った場合……オイレンシュピーゲルは通行人に対して尻をむき出しにする(父親にはそれが見えない)。それを見て通行人は「なんて悪たれだ」と言う。

オイレンシュピーゲルが前、父親が後ろに乗った場合……オイレンシュピーゲルは通行人に対し口を大きく開け、歯をむき出し、舌をぺろぺろ出す(同じく、父親にはそこが死角になっている)。それを見て通行人は「なんて悪たれだ」と言う。

父親は息子の言い分を認める。息子は何もしていないのに人々から「悪たれ」と罵られるのだ、と。そして不幸の星の下に生まれたティルを憐れむ。

 

その後、間もなく父親は死ぬ。残された母子は貧しくなる。だがオイレンシュピーゲルは手職を習わずに、遊びまわり、道化や奇術の真似ばかりしている。オイレンシュピーゲルは16歳になっていた。

 

感想その他

ティルが生まれながらの「あくたれ」(Schalk)であることを上手に描いているな、と感心した。馬の後ろ側に乗ったときは尻を出し、前側に乗ったときは口を開くという対称性もよくできている。そして何よりも自分は悪たれではないのに、悪たれと言われる、と、まことしやかに父親に訴え、「これが証拠だ」と上記のようなことをする3歳のティル。今後の活躍が十分に期待される。

なお、解説によれば、ティルの父親が当時としては高価な馬を所有していたことから、父親はコットホーフと呼ばれるわずかな土地を持ち、さらに盗賊騎士に仕えていた傭兵だったことが読み解けるという。

さらに、そこから次のことが読み解けるという。コットホーフは零細な土地なので、そこにしがみつく理由はない。盗賊騎士(強盗騎士)も騎士の身分を持った強盗なので大したことはなく、しかも当時はそこいらじゅうに盗賊騎士がいたので、大した忠誠を誓う義理もなく、いつでも別の盗賊騎士に鞍替えできる。したがって、15世紀の社会の流動化要因のひとつにはコットホーフ保有者の存在があげられ、ティルのような人物の父親がコットホーフ保有者というのは、この『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』の作者の卓見である、と。

「悪たれ」からここまで読み解けるのだ。

  

データ

阿部謹也 訳、岩波書店 

ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら (岩波文庫)
 

 

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