The Figure in the Carpet

短編小説を読んだから、その感想を書いた

泉鏡花 : 外科室

概要

語り手は画師である「予」。「予」は自分と「兄弟もただならざる」医学士高峰が執刀したある外科手術について、画家としての視点を利点に、その手術の一部始終を描写する。
患者は貴船伯爵夫人。「予」は華族の人間がどれほど絵になるのかを、夫人を取り巻いているお付の者たちの忙しなさ、夫人を受け入れている病院側の緊張感とともに手術台の貴船伯爵夫人へ焦点を移す。気高く、清く、貴く、うるわしき病者のおもかげ。
そんな気高く、清く、貴く、うるわしき伯爵夫人は、病院にいて、手術台の上に横たわり、執刀医や看護婦が手術の準備を整えているのにもかかわらず、この土壇場で麻酔を拒む。麻酔をするのなら治療をしなくてもいい。体がよくならなくてもいい。そう言い放つ。

え? なぜなんだろう、という読者の疑問に「予」が伯爵夫人から言質を取る。
なぜなら、麻酔をすると譫言を謂ってしまう恐れがあるから。私は心に秘密がある。その秘密を麻酔で昏倒している間に謂ってしまうことが、怖ろしいから。その秘密を守ることは死にも代えられない。
そういう伯爵夫人に対し伯爵は娘を呼んで娘に母親を説得してもらおうと試みる。伯爵夫人は娘を連れ来る必要はない、麻酔なしで手術を受けると強い口調で言う──執刀医が高峰であることを確認して。
伯爵夫人は周囲のやんわりとした説得も、力づくの説得も受け入れない。絶対に受け入れない。どういう病気を患っているのかはよくわからないが、気力はしっかりとしているようで、伯爵夫人は毅然とした態度を見せる。その死をも覚悟して麻酔を断る伯爵夫人を望み、高峰医師は「看護婦、メスを」と手術台へ近づく。「予」は世にも美しい麻酔なしの手術を仔細に描く。

 

感想その他

この泉鏡花の『外科室』は「実は……」で始まるのでそれに合わせて言っておくと、実は僕は泉鏡花を読むのはこれが初めてだった。文語なので最初は読み難く感じたが、慣れると(慣れるのも早く)、そのエレガントな文章を味わいながら、心理サスペンス的なストーリーに魅了され、一気に読んでしまった。鏡花ってこんなに面白かったのか。もっと早く読んでおけばよかった。

著名な日本文学の古典に今さら何をっていう感じであるが、やはり手術の場面はすごかった。とくに以下は名文でしょう。

雪の寒紅梅、血汐は胸よりつと流れて、さと白衣を染むるとともに、夫人の顔はもとのごとく、いと蒼白くなりけるが、はたせるかな自若として、足の指をも動かさざりき。

 

データ

青空文庫で読んだ。

図書カード:外科室