The Figure in the Carpet

短編小説を読んだから、その感想を書いた

G・K・チェスタトン : 恋人たちの指輪 ~ 『ポンド氏の逆説』より

概要

ポンド氏の友人ガヘガン大尉がクローム卿主催の晩餐会に招待された。このクローム卿の晩餐会は、クローム卿夫人主催のカクテル・パーティの後にその続きとして設定されたもので、数人の男性客のみが招待された。

晩餐会に招待された数名の男性客は「選り抜きの面々だったが、選ばれたようにはとても思えなかった」とガヘガン大尉は振り返る。どういう基準で、これら男性客が選ばれたのか?

ガヘガン大尉は晩餐会の様子をポンド氏と同じく友人のウォットンに話す。クローム卿は大きな指輪を招待客たちに見せた。ルビーが嵌められ指輪は一族の歴史と関りがある由緒あるものだという。クローム卿は「みなさん指輪をごらんになりましたか」とわざわざ客たちに訊いてまわる。

ガヘガン大尉の話をそこまで聞いて、ウォットンは「この話なら知っているよ」とまるで学校の生徒のような感じで言った。あれだろ、その大事なクローム卿の指輪が晩餐会の最中に紛失してしまう、そして、招待客全員が身体検査を受けることになるが、その中の一人が検査を拒む、それは……。

「あたってる」とガヘガン大尉は応える。だが、ちょっとばかし違う。

身体検査は全員が受けた。誰も拒まなかったし、みんな自ら検査を買って出た。

にもかかわらず指輪は見つからなかった。

その後コーヒーの時間に、クローム卿が突然、このコーヒーには毒が入っているから飲んではいけない、と大声を上げた。

しかしその忠告を無視し、ピット=パーマーという外交官がコーヒーを飲んで、死んでしまった。

なぜピット=パーマーはクローム卿の警告を無視し、コーヒーを飲んだのか?

ポンド氏は言う「ピット=パーマーは指輪を盗んだりしなかった」

 

感想その他

ネタをバラして、この華麗なる逆説をまるで自分が考えたかのように得意げに書きたい誘惑に駆られるが、それをしないで、以下のポンド氏の説明を拝聴しておくに止める。 

いいかね、問題はこういうことなんだ──現実の出来事が小説を思い出させると、我々はその小説についてすべてを知っているものだから、現実についてもすべて知っていると無意識に思い込んでしまう。読み慣れた作り話の筋道だか紋切型だかに嵌まり込んで、その筋道が、作り話の中でのように、前後につづいていると考えずにはいられない。物語の背景が全部頭にあるものだから、じつはべつの物語の中にいることが信じられない。我々はつねに作り話の中で仮定されていることを仮定してしまうが、それは真実ではないんだ。間違った前提を正しいと思い込んだら、間違った答を出すばかりでなく、間違った問いを発する。 

 このポンド氏の言っていることはすごく重要だと思うので強調しておいた。

 

データ

南條竹則 訳、『ポンド氏の逆説』(東京創元社)所収  

 

 

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