The Figure in the Carpet

短編小説を読んだから、その感想を書いた

ダフネ・デュ・モーリア : そして手紙は冷たくなった

概要および感想・その他

ラストの2行を除いて全編、ミスター・X・Y・Zという男性からミセス・Bへ送られた手紙という形式になっている。

ミスター・X・Y・Zは、仕事の都合で中国に住んでいるのだが、6カ月の休暇でイギリスへ帰って来た。中国で彼はミセス・Bの兄と親しくしていたという。そこでお近づきに、とミセス・Bに手紙を出す。快い返事をもらったミスター・X・Y・Zは、それから情熱的な文章を綴った手紙を次々とミセス・Bに送りまくる。最初の日が6月で、7月、8月へと日が経つにつれて、ミスター・X・Y・Zのテンションは高くなり、そのテンションの高さから、二人の間に何があったのか、二人の間がどう進展しているのかが、それとなく、どころか手に取るようにわかる(その描き方、仄めかし方が、すごく上手い。さすがダフネ・デュ・モーリア)。

そして8月の後半から9月の後半にかけての1カ月間、ミスター・X・Y・Zとミセス・Bはお忍びで旅行に出かけ二人だけの時間を過ごす。

旅行から帰って来てからのミスター・X・Y・Zのミセス・Bへの手紙は、次第にテンションが下がっていく。ミスター・X・Y・Zが、どのようにミセス・Bと距離を取ろうかと画策しているのが手に取るようにわかる。ミスター・X・Y・Zの冷めた文章から二人の関係がどうなっているのか、とくにミセス・Bの精神状態がどうなっているのかがそれとなくわかる。

僕の動きをスパイするのはやめてもらえるとありがたいんだが。 

ミスター・X・Y・Zがミセス・Bに対していかにうんざりしているか──それをいかにして無礼にならないように努力して書いているが、実際は「もう君は飽きた」ということをミセス・Bにそれとなく知らせようとしていることが手に取るようにわかる。そしてミセス・Bが「もう君には飽きた」というミスター・X・Y・Zの真意を、本当は理解できるのに、そのままの言い方では理解できない振りをして、「男の下劣さ」を最大限引き出そうとしていることを、ミスター・X・Y・Zの文章から読み解くこともアリだと思う(ここらへんの微妙な描写、さすがダフネ・デュ・モーリアだけあって、ときどきはっとさせられる)。 

これで真実がわかったろう。さようなら。

 

手紙の日付が載っているので、ミスター・X・Y・Zの方は、最初から6カ月の休暇を計画的に消化しているのがわかる。ミスター・X・Y・Zはプレイボーイで残酷でエゴイストだというのはわかる。ただ、そんなミスター・X・Y・Zにいいようにされ、精神的にも追いつめられているように考えられるミセス・Bに作者は哀れな被害者として同情しているだろうか? 固有の男女の名前ではなくミスター・X・Y・Zとミセス・Bとわざわざ記したのは、やっぱり何か意味があるんだろうな。

 

データ

務台夏子 訳、『人形 デュ・モーリア傑作集』(東京創元社)所収