概要 ロイド・インウッドとポール・ティチローンはライバル同士だった。髪の色や興奮したときの顔色、目の色といった色彩がそれぞれ異なるだけで、他はまるで双子のような姿態をしていた。性格も似ており、二人とも激しやすかった。二人は、あらゆることにお…
概要 「昨日はよつぽど妙な日だつた。」と語り手の「私」は、不思議な体験をした一日を振り返る。その日は、日曜日なのにカラリと晴れたのが、まずおかしい、そして無精な私が散歩に出る気になったのも、おかしい……と不思議な体験をしたその日は、今から思え…
概要 ヴィルジニー・デュラーブル夫人は、かつて自分の夫を痴呆状態へ追い込み、保護施設へ収容させた。今度は自分の娘とその夫の番だった。なぜなら、娘は母親の奇行と悪意を十分知っていたので、結婚のチャンスが訪れると、すぐに夫とともに逃げるように実…
概要 「俺」とスティーヴン・マッカイは1897年のゴールドラッシュにクロンダイクを目指した。俺とスティーヴは実の兄弟以上の仲だった。スティーヴは俺の相棒だった。同志だった。俺はあいつが病気のときは治るまで看病し、あいつも俺の命を救ってくれた。俺…
概要 「わたし」はロンドンにある某ホテルのコーヒーハウスから街路の群衆を観察している。群衆をまず巨大な集合体として捉え、それから群衆が集合体としていかなる関係性を示していくのか、目を凝らし、細部を詮索する。何様だかわからないが、しかしわたし…
概要 それは原初的な舞台であり、原初的な場面であった。世界が若く、野蛮だったころに見られたであろう情景。暗い森の中で拓かれた場所、歯を剥いた狼犬たちの輪、中央では二体の獣ががっちり組みあい、歯をぱちんと鳴らしうなり声を上げ、狂おしく跳ね回り…
概要および感想・その他 ラストの2行を除いて全編、ミスター・X・Y・Zという男性からミセス・Bへ送られた手紙という形式になっている。 ミスター・X・Y・Zは、仕事の都合で中国に住んでいるのだが、6カ月の休暇でイギリスへ帰って来た。中国で彼はミセス・B…
概要 加藤君、僕はいよいよ自殺することにした。この場合自殺が僕にとって唯一の道であるからである。 自殺を決意した「僕」は、その経緯を加藤君という友人らしき人物に宛てた手記として書き残す。手記の中で僕は、自殺することがいかに理にかなっており、…
概要 ポンド氏の友人ガヘガン大尉がクローム卿主催の晩餐会に招待された。このクローム卿の晩餐会は、クローム卿夫人主催のカクテル・パーティの後にその続きとして設定されたもので、数人の男性客のみが招待された。 晩餐会に招待された数名の男性客は「選…
概要 書き出しはこう。 僕はいまバービー人形とつきあっている。週三回、妹がダンスの教室に行っている隙に、バービーをケンのところから連れ出す。まあ、いわば将来にむけての予行演習だ。 登場「人物」は、ほぼこの4人に限られる。語り手の少年「僕」、「…
概要 父親に運(ラック)がないために家にはお金がない。その母親の声にならない言葉は家じゅうにひそひそと響き渡り、幽霊のように憑きまとった──「もっとお金がいる! もっとお金がいる!」 ポール少年は「幸運」の手がかりを求める。一心不乱になって、木…
概要晩春の蒸し暑い日の午後、語り手の「私」は、どこまでもどこまでも真っ直ぐに続いている広い大通りを歩いていた。途中、道の真ん中では、お下げの女の子たちが輪になって「アップク、チキリキ、アッパッパア……アッパッパア……」と歌っていた。男の子たち…
概要 イレーネとぼくの兄妹は曾祖父母の代からの古い屋敷に住んでいる。奥行のある、前翼、後翼に分かれた広い屋敷に、イレーネとぼくの二人だけで住んでいる。仕事はする必要がなかった。所有している農場からの収入があったからだ。ぼくはフランス文学に傾…
マルコ福音書の中でイエスが「人々は我を誰と言ふか」「なんぢらは我を誰と言ふか」と弟子たちに問う場面がある。それを作者である「私」は、「たいへん危いところである」と分析する。 イエスは其の苦悩の果に、自己を見失い、不安のあまり無智文盲の弟子た…
概要 両脚の間でオートバイのエンジンが唸る。朝のコースは快適だった。が、気持ち良すぎて気を取られていたのかもしれない。オートバイを心地よく飛ばしていた「彼」は事故で横転した。オートバイの下敷きになっている彼を数人の若い男たちが引き出し、あお…
概要 「私自身はブルジョワジーに属するから、政治にまだ距離を置いている。現在の状況で進むいかなる階級闘争にも加担したことがない。私には、プロレタリアートの抗議にも、資本主義の現在の局面にも共鳴する理由がない」 「おやおや」ポンド氏の眼に理解…
概要 肉体に古傷をもつ男と心に古傷をもつ男が、ある冬の日、温泉場で同宿した。斎藤氏の顔には戦場で浴びた砲弾によって見るも無残な傷跡が刻まれていた。顔だけではなく身体にも刻印された古傷の痛みに悩まされていた斎藤氏は、それでも戦争での武勇伝を語…
概要 雨の中、笠と蓑を着て三角形の冠をかぶった猪が橋の上を渡っていくのが見える。少年と母親は、その橋の袂にある榎の下の小さな小屋に住んでいた。間に合わせで作られたような粗造な橋であったが、少年はその橋を「母様の橋」と呼んでいた。母子一家は橋…
概要 楽園からアダムとイヴを追放した神は、その後、二人を哀れに思い、一本の棒を彼らに与えた。欲しいものがあったら、その棒で海を叩くように、と。アダムが棒を叩くと一匹の牝羊が出てきた。イヴが叩いたら狼が飛び出し、さっきの羊を捕まえようと森へ走…
概要 序文で医者らしき人物が、以下の物語はXX湾で発見された文書で執筆者は不明である、と但し書きがつく。文書には判読できない損傷があり、多くの部分は脈絡がないように見え、終わり方も唐突であっけない、と。 手記のような物語の語り手は「僕」である…
概要 写真家の「私」は、パリに住んでいる知人からニースで日本から来た学者に会ってくれと頼まれた。しかし私がニースの指定されたホテルについてみると、当の学者は二日前に発った後だった。このままパリに帰るか、それともアルルでも行ってローマ時代の遺…
概要 カサガイ類は、アワビ類と同様幅の広い腹足で岩盤などの基質に強力に吸着して生活している。これは生活している基質から離れることを前提とせず、傘型の殻を引き剥がすのが困難なほど岩盤などに密着させて身を守っているのである。従って、多くのらせん…
概要 語り手は画師である「予」。「予」は自分と「兄弟もただならざる」医学士高峰が執刀したある外科手術について、画家としての視点を利点に、その手術の一部始終を描写する。患者は貴船伯爵夫人。「予」は華族の人間がどれほど絵になるのかを、夫人を取り…
概要 「ぼくはまるで貝のなかにとじこめられた醜魔だった。そしてぼくの醜さはたぶんぼくの絶望好みのためだったのだろう。いうまでもないがそれはあの貝の外にある堅固な世界と日常生活の進行に対する嫌悪から生まれたものだった」と語り手の「ぼく」は語る…
概要 病院に少年が運ばれてきた。下半身全体が血まみれで脚はつぶれていた。少年はひっきりなしに泣き叫んでいた。医師は少年の身体が石炭の粉で汚れているのを見て事の次第を把握した。少年は石炭を盗もうとし、走っていた列車から転落したのだった。 通常…
概要 この国には奇妙で悦ばしいことがいろいろとあるけれど、そのひとつが、善良なる国民がひとつの宗教から別の宗教へ、あるいは特に何も宗教を持たない状況からたまたまそこに現れた宗教へとあっさりと移ってゆく、その無造作である。そこでは特に何の喪失…
概要 私はポンド氏の中にも怪物がいることを知っていた。ほんの束の間表面に浮かび上がって、また沈んでしまう心の中の怪物たちが。それらは彼の穏やかで理性的な発言のさなかに、突拍子もない発言の形をとって現われた。彼がいとも正常な話をしている真っ際…
概要 「私」は、いま一緒にいる精神科医のグレイ医師が昔の知り合いだったことに気がついて、黒いレンズの眼鏡を掛けた。なぜグレイ医師は一般の開業医を辞め心理学を志すようになったのか? 私が13歳のとき近所の眼科医へ眼鏡をつくりにいったときのことだ…
概要 邪なゴタゴタから逃れるために、と、老ガルロ(「僕」のおじさんのおじさん)は汽車の旅の危険性について僕とメリクおじさんに講釈する。 慎重に席を選び、座ったらキョロキョロしない、偽物の車掌に気をつけろ、タバコを勧めてくる若者を相手にするな…
概要 イェール大学を卒業し、その後、英国留学してオックスフォード大学を出たものの金に恵まれないペンバートンは、ニースに住んでいるイギリス人のある婦人から家庭教師の口を紹介される。生徒の名前はモーガン・モリーン、11歳。モーガンは、ヨーロッパを…