The Figure in the Carpet

短編小説を読んだから、その感想を書いた

アンブローズ・ビアス : 犬油

概要

「ぼくはボファー・ビングズという男だが、少々卑しい稼業をしていた正直な両親の下に生まれた」。その「ぼく」が、父親と母親がどうして死んだのか、そしてどのように死んだのかを淡々を語る。淡々と。他人事のように。

ぼくの父親がやっていた卑しい稼業とは犬油製造業だ。工場の炉の大釜で犬を煮詰め、油をとる。その犬の油を医薬品として卸していた。ぼくは父親の仕事を手伝った。町からは飼い犬が頻繁に行方知らずになり、飼い主たちからの疑惑の目がぼくにはきつかった。

ぼくの母親は教会の側に仕事場をもっていた。彼女は「歓迎されない嬰児」を処置していた。ぼくは母親の仕事も手伝っていて、彼女の仕事場から出た「残骸」を棄てにいった。母親の事業に反対する者もいたが、彼らは野党候補者と懇意にしていたので、影響はなかった。

あるとき、ぼくは、母親の仕事場からでた嬰児の死体をもって父親の仕事場へいった。本当は川に投げ捨てるはずだったのに、警官に見張られているような気がして、犬の精油のための大釜に嬰児の死体を投げ込んだ。

父親は、ぼくを叱らなかった。それどころか上質のオイルがとれたことに満足していた。ぼくは結果として父親と母親の「共同作業」のお膳立てをしたのだ。母親は教会の側から父親の精油工場へと仕事場を移した。父親と母親は仕事熱心だった。ぼくは二人の「共同作業」を手伝った。犬の行方不明はなくなり、代わりに子供の行方不明が増えた。

しかし今度ばかりは町の住民も黙っていなかった。両親の事業への反対決議がなされた。事業に失敗した二人は、互いに互いを殺そうとし、二人とも大釜に落ちてしまった。

 

感想その他

父親と母親の事業を淡々と語る「ぼく」がいい味をしている。その事業内容を知らなければ、二人とも、そして「ぼく」も、まるで勤勉で禁欲的なピューリタン像そのものだ。「ぼく」にとって母親は神聖な影響を与えてくれた人で「教会の側」で仕事をしている。父親は教会の執事をしている。それなのに「ああ、こんな尊敬すべきふたりが」……と嘆いてみせる。自分の不注意によって両親は死んだんだ……と悔やむ。

さすが『悪魔の辞典』の作者アンブローズ・ビアスだな、と改めて。

 

データ

Oil of Dog

大津栄一郎 訳、『ビアス短篇集』(岩波書店)所収 

ビアス短篇集 (岩波文庫)

ビアス短篇集 (岩波文庫)