The Figure in the Carpet

短編小説を読んだから、その感想を書いた

アンブローズ・ビアス : 猫の船荷

概要

マルタ島を出航したメアリー・ジェイン号は大量のマルチーズ猫を積荷していた。送り状によれば猫の総数は127,000匹。猫たちはどさっと船倉に落とし込まれた。ある航海士が猫たちは喉が渇くだろうと大量の水をポンプで船倉に送り込んだ。そのため下積みになっていた猫たちは溺死した。

みなさんも池に浮いている猫の死体を見たことはおありだろう。腰のところがどんなに大きくなっていたかを思い出していただきたい。一匹の猫が死ぬと水のためにその体積は十倍になっててしまう。 

 膨張した猫の死体によって船倉は爆発寸前になる。船倉の蓋は吹っ飛び、留め金がはじけ飛ぶ。メアリー・ジェイン号はコントロール不能になる。このままでは船は分解し、転覆するだろう。

しかも猫は歯と爪で他の猫を掴み、取っ組み合い、密集隊形を組んでいた。「恥知らずなほど真実を語る雄弁家」である「ぼく」は言う──それはマルチーズ猫の軍団だった、と。それら猫の真四角な縦列軍団が突進してくる。

 

感想その他

『犬油』で犬に酷いことをしたと思ったら、猫にもこんなことをしているし。ただ『猫の船荷』では溺死した猫が10倍に膨張するという奇想小説(というかホラ話)になっており、人間が猫軍団に翻弄される様を描いているのが少し違う。語り手の「ぼく」は相変わらず他人事のように淡々と「真実」を騙る。アンブローズ・ビアスの他の小説の「ぼく」同様、こういうタイプの語り手は嫌いじゃない。僕も「ぼく」のように、観察する対象からこれくらい冷静な距離を置いて、他人事のように、記述したいとは一応思っている。

それにしても『猫の船荷』は、そのバカバカしさの加減が崇高の域にまで達している。こういった「バカ話」は徹底的にやるから忘れ難い奇想小説になるのであって、ビアスもそこは期待通り過不足なくやってくれている。それは船牧師の指揮の下、死ななかった猫121,000匹による讃美歌の唱歌を想像してみればいい。作者は猫の声の音域の巾は平均12オクターブだとし、その音域の声で讃美歌を歌う猫の壮大なコンサートが開かれたと臆面もなく語る。これがビアス流の「世界の調和(ハーモニー)」なんだろう。

 

データ

A Cargo of Cat

大津栄一郎 訳、『ビアス短編集』(岩波書店)所収 

ビアス短篇集 (岩波文庫)

ビアス短篇集 (岩波文庫)