The Figure in the Carpet

短編小説を読んだから、その感想を書いた

ヘルムート・W・モンマース:ハーベムス・パーパム(新教皇万歳)

”法王ピウス14世の時代、人類は周辺の宇宙に進出し、植民地を開拓し、異星文明に対する布教を始めた。活動は宇宙普遍教会の普遍説の精神に基づくものだった。”

 

概要
2866年、ローマ教皇ベネディクト17世が亡くなった。教皇死去のニュースはすぐさま全宇宙に報じられ、すぐさま全宇宙からテラ(地球)へ呼び寄せられた枢機卿たちによって教皇選出会議(コンクラーヴェ)が開かれた。が、新教皇選出は難航する。それは、亡くなったベネディクト17世が革新派の教皇だったからだ。彼は、キリスト生誕後紀元2780年の新使徒経典において、宇宙的普遍性に則った後継選挙規約を定めていた。枢機卿団は、全世界、全人種、全存在形態の緋衣聖職者から構成されるべきであると。すなわち、異星人(エイリアン)、人工知能体、サイボーグ/ロボット、そして女性にもローマ教皇の椅子に座る資格が与えられたのだった。

そのことが、全宇宙のローマ・カトリック信徒の間に激しい議論を巻き起こす。保守派(おそらくほとんどが地球人)の高位聖職者と一般信徒は、エイリアン、ロボット、女性が聖ペテロの後継者になることに対し反対する。一方、リベラルな解釈を取る宇宙人らはこれを是とする。コンクラーヴェは生々しい政治の場になる。

 

感想その他
SFはそれほど読んでいないのだが、未来的状況設定によって現在の価値観や世界観を相対化させる物語が一方にあるとすれば、このヘルムート・W・モンマースの『ハーベムス・パーパム』は、未来的状況設定を使って現実社会そのものを照射しパロディ化している。ここでは、女性がローマ教皇になれない現実問題が、未来的状況設定の中で描かれる。さらに、他の「非人間」たちのアイデンティティ・ポリティクスがそこに加わる。もちろん、エイリアン系市民やメカニック系市民などの解放運動の挿話は、現実のマイノリティ運動のパロディでもあるだろう。

ただ、このオーストリア人作家モンマースの筆致は、女性やエイリアン系、メカニック系といった被差別集団に同情的かといえば、そうでもない。むしろイーヴリン・ウォーのようなサタイアダイバーシティなるものを軽くあしらっているような感じだ。

 

データ

ハーベムス・パーパム(新教皇万歳)
識名章喜 訳、高野史緒 編『時間はだれも待ってくれない 21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集』(東京創元社)所収 

時間はだれも待ってくれない

時間はだれも待ってくれない