The Figure in the Carpet

短編小説を読んだから、その感想を書いた

2018-02-01から1ヶ月間の記事一覧

泉鏡花 : 化鳥

概要 雨の中、笠と蓑を着て三角形の冠をかぶった猪が橋の上を渡っていくのが見える。少年と母親は、その橋の袂にある榎の下の小さな小屋に住んでいた。間に合わせで作られたような粗造な橋であったが、少年はその橋を「母様の橋」と呼んでいた。母子一家は橋…

『狐物語』より第1話 ルナールの誕生と子供時代

概要 楽園からアダムとイヴを追放した神は、その後、二人を哀れに思い、一本の棒を彼らに与えた。欲しいものがあったら、その棒で海を叩くように、と。アダムが棒を叩くと一匹の牝羊が出てきた。イヴが叩いたら狼が飛び出し、さっきの羊を捕まえようと森へ走…

ダフネ・デュ・モーリア : 人形

概要 序文で医者らしき人物が、以下の物語はXX湾で発見された文書で執筆者は不明である、と但し書きがつく。文書には判読できない損傷があり、多くの部分は脈絡がないように見え、終わり方も唐突であっけない、と。 手記のような物語の語り手は「僕」である…

日影丈吉 : 猫の泉

概要 写真家の「私」は、パリに住んでいる知人からニースで日本から来た学者に会ってくれと頼まれた。しかし私がニースの指定されたホテルについてみると、当の学者は二日前に発った後だった。このままパリに帰るか、それともアルルでも行ってローマ時代の遺…

ダフネ・デュ・モーリア : 笠貝

概要 カサガイ類は、アワビ類と同様幅の広い腹足で岩盤などの基質に強力に吸着して生活している。これは生活している基質から離れることを前提とせず、傘型の殻を引き剥がすのが困難なほど岩盤などに密着させて身を守っているのである。従って、多くのらせん…

泉鏡花 : 外科室

概要 語り手は画師である「予」。「予」は自分と「兄弟もただならざる」医学士高峰が執刀したある外科手術について、画家としての視点を利点に、その手術の一部始終を描写する。患者は貴船伯爵夫人。「予」は華族の人間がどれほど絵になるのかを、夫人を取り…

倉橋由美子 : 醜魔たち

概要 「ぼくはまるで貝のなかにとじこめられた醜魔だった。そしてぼくの醜さはたぶんぼくの絶望好みのためだったのだろう。いうまでもないがそれはあの貝の外にある堅固な世界と日常生活の進行に対する嫌悪から生まれたものだった」と語り手の「ぼく」は語る…

ハインリヒ・ベル : ローエングリーンの死

概要 病院に少年が運ばれてきた。下半身全体が血まみれで脚はつぶれていた。少年はひっきりなしに泣き叫んでいた。医師は少年の身体が石炭の粉で汚れているのを見て事の次第を把握した。少年は石炭を盗もうとし、走っていた列車から転落したのだった。 通常…

ウィリアム・サローヤン : 長老派教会聖歌隊の歌い手たち

概要 この国には奇妙で悦ばしいことがいろいろとあるけれど、そのひとつが、善良なる国民がひとつの宗教から別の宗教へ、あるいは特に何も宗教を持たない状況からたまたまそこに現れた宗教へとあっさりと移ってゆく、その無造作である。そこでは特に何の喪失…

G・K・チェスタトン : 黙示録の三人の騎者 ~ 『ポンド氏の逆説』より

概要 私はポンド氏の中にも怪物がいることを知っていた。ほんの束の間表面に浮かび上がって、また沈んでしまう心の中の怪物たちが。それらは彼の穏やかで理性的な発言のさなかに、突拍子もない発言の形をとって現われた。彼がいとも正常な話をしている真っ際…

ミュリエル・スパーク : 黒い眼鏡

概要 「私」は、いま一緒にいる精神科医のグレイ医師が昔の知り合いだったことに気がついて、黒いレンズの眼鏡を掛けた。なぜグレイ医師は一般の開業医を辞め心理学を志すようになったのか? 私が13歳のとき近所の眼科医へ眼鏡をつくりにいったときのことだ…

ウィリアム・サローヤン : アメリカを旅する者への旧世界流アドバイス

概要 邪なゴタゴタから逃れるために、と、老ガルロ(「僕」のおじさんのおじさん)は汽車の旅の危険性について僕とメリクおじさんに講釈する。 慎重に席を選び、座ったらキョロキョロしない、偽物の車掌に気をつけろ、タバコを勧めてくる若者を相手にするな…

ヘンリー・ジェイムズ : 教え子

概要 イェール大学を卒業し、その後、英国留学してオックスフォード大学を出たものの金に恵まれないペンバートンは、ニースに住んでいるイギリス人のある婦人から家庭教師の口を紹介される。生徒の名前はモーガン・モリーン、11歳。モーガンは、ヨーロッパを…

ジャン・パウル : 天堂より神の不在を告げる死せるキリストの言葉

概要 「イエス様、わたしたちのお父様はいらっしゃらないのですか?」──するとキリストは涙を流しながら答えた。「わたしたちは、わたしもお前たちもみんなみなし子なのだよ、わたしたちにお父様はないんだよ」 「わたし」(作者かな?)は、このフィクショ…

ディーノ・ブッツァーティ : 階段の悪夢

概要 語り手の「私」は、なにやらデザイン会社のアーティスト、あるいはエンジニア風の話し方をする。注文主は「夜の精」で、扱っている商品は「悪夢」。悪夢のレパートリーの中で、とりわけ「階段の夢」は評判がいい、と私は誇らしげに述べる。 では導入事…

『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』より第5話、第6話

概要 第5話 ティル・オイレンシュピーゲルの母親は息子が手に職をつけようとしないことを叱る。息子はだんまりを決め込む。が、母親は小言をやめない。「家にはパンがないんだよ」。するとオイレンシュピーゲルは、貧乏人は聖ニコラスの日には立派に断食でき…

『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』より第3話、第4話

概要 第3話 ティル・オイレンシュピーゲルは綱渡りの練習をする。最初は家の屋根裏部屋で練習をしていたのだが、それを見た母親に激しく叱られる。しばらくして今度は家の裏手の高窓からザーレ川をはさんで対岸まで綱を張る。それを見た若者たちが何が起こる…

『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』より第2話

概要 3歳のオイレンシュピーゲルは「自分は悪たれではない」ことを証明するために父親と一緒に馬に乗る。 父親が前、オイレンシュピーゲルが後ろに乗った場合……オイレンシュピーゲルは通行人に対して尻をむき出しにする(父親にはそれが見えない)。それを見…

クルイロフ寓話集より「パルナッソス」「神託を授ける神」

概要 「パルナッソス」 ギリシアの神々の地位が凋落する。神々は神々の座から引きずり降ろされる。そうなると……神々は様々は迫害を受けることになる。それは神々の神殿が修理されず、生贄が供えられないだけではない。「神々が何を言っても、ことごとく嘲笑…

ルートヴィヒ・ティーク : 金髪のエックベルト

概要 通称「金髪のエックベルト」と呼ばれる騎士が妻ベルタと二人でハールツのある地方に住んでいた。二人の夫婦仲は良かったが、この二人には子供が恵まれなかった。また、エックベルトには「自分がいちばん好む考え方とほぼ同じ考え方をする」友人フィリッ…

アンブローズ・ビアス : 猫の船荷

概要 マルタ島を出航したメアリー・ジェイン号は大量のマルチーズ猫を積荷していた。送り状によれば猫の総数は127,000匹。猫たちはどさっと船倉に落とし込まれた。ある航海士が猫たちは喉が渇くだろうと大量の水をポンプで船倉に送り込んだ。そのため下積み…

アンブローズ・ビアス : 底なしの墓

概要 「ぼく」の父親が突然(健康だったのに)夕食後に死んだとき、母親は「私が手をくだしてこうなったわけではない」と子供たちの前で強調した。「もちろん、死んでよかったと思っているけど」。 しかし心配性の母親は、このような突然の神秘的な死の場合…

ミュリエル・スパーク : 人生の秘密を知った青年

概要 幽霊はタンスのいちばん上の引き出しからひゅるひゅると出てきて、ふわっと立ち上がる。高さはだいだい1メートル半。古いマンガに出てくる典型的なやつだ。それがベンという青年のところに毎夜、あるいは毎朝、姿を見せるという。単に姿を見せるだけで…