2018-01-01から1ヶ月間の記事一覧
概要 新聞は死刑の宣告を下したサリヴァン・スタンリー判事の表情を見逃さなかった。まるで幽霊を見たかのような顔であり、明らかに動揺を見せていた、と書く新聞もあった。死刑の宣告が重荷だったのではないか。死刑制度に疑義があるのではないか、と憶測が…
概要 画家のジョン・フランクリンと妻のエルシーはアフリカを自動車で旅行している。なぜアフリカなのか? それはエルシーが、ジョンと彼の愛人オディル・デュフィールを引き離そうと、パリから遠いこのアフリカの地へ夫を連れてきたのだった。どうやらエル…
概要 ーーカール、だ、だれが見ても、あ、あなたが男ってことは分かるわよ。 ーーハッハッ。そんなことはない、ルーシー。ぼくはちゃんと風呂場の鏡で確かめたんだ。ぼくがドレスを着ると、どこにでもいる黒人女の炊事婦にそっくりだ。どっちにしたって、誰…
概要 捕虜君、と南軍のクレイバリング将軍が呼んだ北軍のスパイはパーカー・アダソンと名乗った。将軍の尋問に対し、捕虜はこの場に相応しくないユーモアと機知に富んだ受け答えをする。敵軍のスパイなら、死罪になることは当然自覚しているはずなのに、だ。…
概要 「私」は職場を出て、家路を急ぐ。ただ、何かをし忘れた気がする。それが何だかわからない。バス停では誰も私に目をくれない。自分が透明人間になったように思う。なぜなら、 周囲の視線が私を突き抜けていくばかりか、歩行者が私の体を通り抜けていく…
概要創設が中世期まで遡る伝統あるマンディヴィル大学で二人の男性が殺された。二人はアメリカ人とドイツ人の資本家だった。二人は由緒あるマンディヴィル大学に経済学部を新設するために大学を訪れ、多額の寄付を申し出、学寮内を見学していたのだった。警…
概要 彼は21階からエレベーターに乗ってくる、と彼女は確かめた。同じように彼女は16階にある会社に勤めている、と彼は確認した。二人の男女はエレベーターの中で互いを意識する。その階のどの会社に勤めているのか、どこに住んでいるのか、髪の毛は染めてい…
概要 アグイーねえ。それはわたしたちの死んだ赤ん坊の幽霊でしょう? なぜアグイーというのかといえば、その赤ん坊は生まれてから死ぬまでに、いちどだけアグイーといったからなのよ。 大学生の「ぼく」は、銀行家の息子で前衛作曲家Dの付添いというアルバ…
概要なぜ結婚をしてくれないのか、とジェナー・ブレイディングはアイリーン・マーロウに訊く。私は正常な人間ではないから、とアイリーンは応える。私は異常をきたしているの、それは……。 アイリーンの告白を「筆者」が代わって書き記す。アイリーンの父親チ…
概要 南北戦争の最中、北軍の駐屯地で南軍の密偵が拘束された。密偵の名前はドレーマー・ブルーン。その人物の正体を見破ったのは北軍のパロル・ハートロイ大尉だった。実はブルーンとハートロイ大尉の間には因縁めいた話があった。かつて北軍兵士としてそれ…
概要 「あれを聞きましたか?」とジョン・モーガンという小柄な男が休暇で湖にやってきたジーンとハルのところへやってくる。「あれ」とはこおろぎの泣き声のことだった。ジョン・モーガンによれば、こおろぎが翅を擦り合わせて出す音は、暗号メッセージにな…
概要 作家である「ぼく」は、一人の「中年男」にただならぬ興味を抱く。その中年男は魯迅の肖像に見られるような黒い詰襟の服を着て、顔は海驢(アシカ)を思わせる。同行した地方紙記者は、その中年男に関して《アトミック・エイジの守護神》というタイトル…
概要 某月某日──今日、明るくなるとお母さんはぼくをへどがでるものと呼んだ。おまえは忌まわしいものなのよといった。 「ぼく」は虫を食べる。歩くとぴしゃぴしゃ音がする。「ぼく」はお父さんに殴られ片腕からしずくを床に巻き散らす。這い降りてくる黒蜘…
概要 ”旧石器時代があり、新石器時代があり、青銅器時代があり、そして長い年月のあとにカットグラス時代がやってきた。” イヴリンがハロルド・パイパーと結婚すると言ったとき、カールトン・キャンビイという青年が大きなカットグラスのボウルを彼女に贈っ…
概要 画家であり詩人であるガブリエル・ゲイルの注意を引いたのはロンドン郊外の住宅地にある家だった。家を覆うような山査子の茂みに芝生の庭があった。その庭には孔雀がいた。なぜ、孔雀がいるのか?田舎にある貴族の屋敷なら孔雀がいてもおかしくはない。…
概要 かつてマーロックという男が森の奥深くにある丸太小屋に住んでいた。1830年代のアメリカで、西へ西へと危険や窮乏との出会いを果たしてきた者たちの一人だった。マーロックには東部で結婚した妻がいた。彼女も、夫と共に、危険と窮乏に、明るく元気に立…
概要 「ぼく」は母親を惨殺した。逮捕され、裁判に掛けられている。弁護士に従ってぼくは次のような陳述をした(そのおかげでぼくは無罪を獲得した)。 ぼくの父は追い剥ぎ業を営んでいた。事業は繁盛していた。ある日、巡回説教師がやってきて宿賃替わりに…
概要 キリスト生誕から1500年後、農民の子として生まれた編著者は、前書きで次のように記す。その昔ティル・オイレンシュピーゲルと呼ばれていた活発で機知に富み、抜け目のない若者が、ドイツやその他の地で「しでかしたこと」を集めて書き記すように依頼さ…
概要 息子は父親の勉強を手伝っていた。80歳の父親は明日テストに臨む。息子であるレズは、父親のトムが、どうしても連続した数字を覚えられないことに苛立っていた。父親にはテストをパスして欲しい、そう思いレズの心は逸っていた。レズの子供たちは寝てい…
概要 「ぼくはボファー・ビングズという男だが、少々卑しい稼業をしていた正直な両親の下に生まれた」。その「ぼく」が、父親と母親がどうして死んだのか、そしてどのように死んだのかを淡々を語る。淡々と。他人事のように。 ぼくの父親がやっていた卑しい…
概要 なぜ、ロシア人の亡命科学者は下宿先の家の窓をすべて開けるのか? そのことについて医師ガースらが訝っているときに、画家であり詩人であるガブリエル・ゲイルはこう言い放つ。「君は二等辺三角形だったことがあるかい?」 感想その他 G・K・チェスタ…
概要 ”ある夜、私のアパートに犬がいた”という、その事実以外の何ものも意味しない明快な文で、このレベッカ・ブラウンの連作短編集は始まる。アパートに犬がいた。それは背が高く黒くて痩せていて…耳は尖っていた。ドーベルマンだろうか? 読んでいくと、こ…
概要 アンデレ(Andreas)は「男、おす」を意味する andros を美しく適切に男性的に転化したものだ、と使徒聖アンデレの物語は始まる。彼が使徒に選ばれる来歴は福音書に書いてあるとおりなので、ここではキリスト昇天後のアンデレの活躍に注目したい。 まず…
概要 一人称の語り手「私」が学生時代の友人ジェニーを訪ねる。ジェニーはサイモン・リーヴズと結婚し、二人の間には双子の子供マージーとジェフがいる。幸せを絵にかいたような、とでも表現したい理想的な夫婦と、黙っていられないほど愛くるしい女の子と男…
概要 「警官嫌いを直すなら、警察に行くのがいちばんだよ」と叔母に言われた青年は、いやいやながら警察に行った。彼は警察が嫌いだった。ちょうど知り合いの女の子が「郵便局嫌い」だったのと同じように。 青年が警察署に行くと、番号で呼ばれ、手錠を掛け…