The Figure in the Carpet

短編小説を読んだから、その感想を書いた

2018-03-01から1ヶ月間の記事一覧

ジャック・ロンドン : 影と閃光

概要 ロイド・インウッドとポール・ティチローンはライバル同士だった。髪の色や興奮したときの顔色、目の色といった色彩がそれぞれ異なるだけで、他はまるで双子のような姿態をしていた。性格も似ており、二人とも激しやすかった。二人は、あらゆることにお…

神西清 : ハビアン説法

概要 「昨日はよつぽど妙な日だつた。」と語り手の「私」は、不思議な体験をした一日を振り返る。その日は、日曜日なのにカラリと晴れたのが、まずおかしい、そして無精な私が散歩に出る気になったのも、おかしい……と不思議な体験をしたその日は、今から思え…

レオン・ブロワ : 殉教者の女

概要 ヴィルジニー・デュラーブル夫人は、かつて自分の夫を痴呆状態へ追い込み、保護施設へ収容させた。今度は自分の娘とその夫の番だった。なぜなら、娘は母親の奇行と悪意を十分知っていたので、結婚のチャンスが訪れると、すぐに夫とともに逃げるように実…

ジャック・ロンドン : あのスポット

概要 「俺」とスティーヴン・マッカイは1897年のゴールドラッシュにクロンダイクを目指した。俺とスティーヴは実の兄弟以上の仲だった。スティーヴは俺の相棒だった。同志だった。俺はあいつが病気のときは治るまで看病し、あいつも俺の命を救ってくれた。俺…

エドガー・アラン・ポー : 群衆の人

概要 「わたし」はロンドンにある某ホテルのコーヒーハウスから街路の群衆を観察している。群衆をまず巨大な集合体として捉え、それから群衆が集合体としていかなる関係性を示していくのか、目を凝らし、細部を詮索する。何様だかわからないが、しかしわたし…

ジャック・ロンドン : バタール

概要 それは原初的な舞台であり、原初的な場面であった。世界が若く、野蛮だったころに見られたであろう情景。暗い森の中で拓かれた場所、歯を剥いた狼犬たちの輪、中央では二体の獣ががっちり組みあい、歯をぱちんと鳴らしうなり声を上げ、狂おしく跳ね回り…

ダフネ・デュ・モーリア : そして手紙は冷たくなった

概要および感想・その他 ラストの2行を除いて全編、ミスター・X・Y・Zという男性からミセス・Bへ送られた手紙という形式になっている。 ミスター・X・Y・Zは、仕事の都合で中国に住んでいるのだが、6カ月の休暇でイギリスへ帰って来た。中国で彼はミセス・B…

小酒井不木 : ある自殺者の手記

概要 加藤君、僕はいよいよ自殺することにした。この場合自殺が僕にとって唯一の道であるからである。 自殺を決意した「僕」は、その経緯を加藤君という友人らしき人物に宛てた手記として書き残す。手記の中で僕は、自殺することがいかに理にかなっており、…

G・K・チェスタトン : 恋人たちの指輪 ~ 『ポンド氏の逆説』より

概要 ポンド氏の友人ガヘガン大尉がクローム卿主催の晩餐会に招待された。このクローム卿の晩餐会は、クローム卿夫人主催のカクテル・パーティの後にその続きとして設定されたもので、数人の男性客のみが招待された。 晩餐会に招待された数名の男性客は「選…

A・M・ホームズ : リアル・ドール

概要 書き出しはこう。 僕はいまバービー人形とつきあっている。週三回、妹がダンスの教室に行っている隙に、バービーをケンのところから連れ出す。まあ、いわば将来にむけての予行演習だ。 登場「人物」は、ほぼこの4人に限られる。語り手の少年「僕」、「…

D・H・ロレンス : 木馬を駆る少年

概要 父親に運(ラック)がないために家にはお金がない。その母親の声にならない言葉は家じゅうにひそひそと響き渡り、幽霊のように憑きまとった──「もっとお金がいる! もっとお金がいる!」 ポール少年は「幸運」の手がかりを求める。一心不乱になって、木…

江戸川乱歩 : 白昼夢

概要晩春の蒸し暑い日の午後、語り手の「私」は、どこまでもどこまでも真っ直ぐに続いている広い大通りを歩いていた。途中、道の真ん中では、お下げの女の子たちが輪になって「アップク、チキリキ、アッパッパア……アッパッパア……」と歌っていた。男の子たち…

フリオ・コルサタル : 占領された屋敷

概要 イレーネとぼくの兄妹は曾祖父母の代からの古い屋敷に住んでいる。奥行のある、前翼、後翼に分かれた広い屋敷に、イレーネとぼくの二人だけで住んでいる。仕事はする必要がなかった。所有している農場からの収入があったからだ。ぼくはフランス文学に傾…

太宰治 : 誰

マルコ福音書の中でイエスが「人々は我を誰と言ふか」「なんぢらは我を誰と言ふか」と弟子たちに問う場面がある。それを作者である「私」は、「たいへん危いところである」と分析する。 イエスは其の苦悩の果に、自己を見失い、不安のあまり無智文盲の弟子た…

フリオ・コルタサル : 夜、あおむきにされて

概要 両脚の間でオートバイのエンジンが唸る。朝のコースは快適だった。が、気持ち良すぎて気を取られていたのかもしれない。オートバイを心地よく飛ばしていた「彼」は事故で横転した。オートバイの下敷きになっている彼を数人の若い男たちが引き出し、あお…

G・K・チェスタトン : 名前を出せぬ男 ~ 『ポンド氏の逆説』より

概要 「私自身はブルジョワジーに属するから、政治にまだ距離を置いている。現在の状況で進むいかなる階級闘争にも加担したことがない。私には、プロレタリアートの抗議にも、資本主義の現在の局面にも共鳴する理由がない」 「おやおや」ポンド氏の眼に理解…

江戸川乱歩 : 二癈人

概要 肉体に古傷をもつ男と心に古傷をもつ男が、ある冬の日、温泉場で同宿した。斎藤氏の顔には戦場で浴びた砲弾によって見るも無残な傷跡が刻まれていた。顔だけではなく身体にも刻印された古傷の痛みに悩まされていた斎藤氏は、それでも戦争での武勇伝を語…