The Figure in the Carpet

短編小説を読んだから、その感想を書いた

フリオ・コルタサル : 夜、あおむきにされて

概要

両脚の間でオートバイのエンジンが唸る。朝のコースは快適だった。が、気持ち良すぎて気を取られていたのかもしれない。オートバイを心地よく飛ばしていた「彼」は事故で横転した。オートバイの下敷きになっている彼を数人の若い男たちが引き出し、あおむけにして彼を近くの薬局に運んだ。「あおむけにしたまま運び込むんだ」と男たちは言っていた。

病院に移され、彼は怪我に相応の処置を受ける。ベッドで寝ていると……彼は夢の世界に移動した。沼沢地でアステカ族の人間狩りから彼は逃げていた。戦いの匂いがし、花の戦が始まっていた。本能的に腰帯のナイフに手をやった。

彼らはある時期になると、敵の男たちを

狩りに出るが、それを花の戦と呼んでいた。 

 アステカ族の人間狩りの恐怖から逃れようと彼は身を潜め、頃合いを見計らって飛び出した。すると……隣のベッドの患者が、そんなに暴れるとベッドから落ちますよ、と彼に注意してくれた。看護婦がやってきて彼に注射をした。

病室でスープを飲み、あおむけになり、身体の力を抜く。……花の戦の最中で彼は人間狩りをするアステカの戦士に追われていた。暗闇の中だった。堆積した枯葉と泥の中に足がめり込む。敵の気配が感じられる。突然、叫び声が聞こえた。彼は、襲い掛かってきた敵の胸にナイフを突き立てた。とたんに身体を快感が走った

以下、病室のシーン → 花の戦のシーン → 病室のシーン → 花の戦のシーンの繰り返し

そして彼はアステカ族に捕まり、あおむけにされたまま担ぎ上げられ、祭壇に運ばれる。祭壇の石は生贄の血に染まっていた。次の生贄は彼だった。あおむけにされて目を閉じている彼のそばにナイフを持った男が近づいてきた……そして彼の両脚の間では「金属製の昆虫」が唸りをあげていた。

 

感想その他

 あおむけにされている状態の「彼」が夢と現実を彷徨う、というよりも、夢と現実が切り替わる、と言った方が近いのかもしれない。それもただのこれまで見てきた夢と違って「匂いのする夢」であった。「彼」は「戦いの匂いがする」と表現する。異質な夢の中は「聖なる時間」で、その「聖なる時間」の間中、花の戦と呼ばれる人間狩りによって「彼」は追われ続ける。そしてついに「彼」は捕らえられ、あおむけにされる。

幻想小説なので、そういう状況の中で、そういうことが起こっている、と素直にそう採ればいいのだけど……なんか読み解きたいよね。とくに執拗に繰り返される「あおむけにされる」ってどんなモチーフなんだろうか? 

 

データ

木村榮一 訳、『悪魔の涎・追い求める男』(岩波書店)所収 

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)