アンブローズ・ビアス : ぼくの快心の殺人
概要
「ぼく」は母親を惨殺した。逮捕され、裁判に掛けられている。弁護士に従ってぼくは次のような陳述をした(そのおかげでぼくは無罪を獲得した)。
ぼくの父は追い剥ぎ業を営んでいた。事業は繁盛していた。ある日、巡回説教師がやってきて宿賃替わりに訓戒の説教をした。感銘を受けた父は追い剥ぎ業から宗教業に転職した。追い剥ぎ業の営業権とライフルやショットガンなどの備品は叔父のウィリアムへ譲渡した。ぼくの両親は「聖者たちの憩いの場」という名の信者向けダンス・ホールを開いた。
さて、用事でヨコーテへ向かうため、ぼくは駅馬車に乗ったのだが、強盗に襲われた。ぼくは現金と金時計を奪われた。ただ、その三人組の強盗は、叔父とその息子であるとぼくは見抜いていた。
後日、叔父に現金と時計を返せと言いにいったところ、そんなことは知らないと無視され、それどころか、近辺に別のダンス・ホールを建ててやるぞ(お前の親の商売敵になって、店を潰してやる)、と脅された。
ぼくは復讐のための計画を立てた。両親は快く賛同し、上手くいくよう祈ってくれた。
叔父に家にいくと「親切な」叔母が、夫の居場所を教えてくれた。ぼくは不意を狙い、叔父をライフルの台座で殴り、両足のアキレス腱を切った。再起不能になった叔父を小麦袋の中に入れ、ロープで木の枝に吊るした。そして…叔父が飼っていた獰猛な雄羊をけしかけ、角で叔父を襲わせた。叔父は袋の中に入っているので、雄羊はなかなか急所に角を命中させることはできない。そのため、ぼくは、叔父の悲鳴と嗚咽をじっくりと聴くことができた……”伸ばした根がなにかの有毒なミネラルにぶつかった植物のように、あわれな叔父は下からだんだん上に死にながら、死ぬ運命だったのです。”
感想その他
後年のハードボイルドやノワールを思わせるバイオレンス満載で吃驚した。とくに「ぼく」が雄羊をけしかけ、その角で叔父を突き刺し殺すところは数ページにわたり、詳細に描かれており、しかも、その様子に語り手である「ぼく」は明らかに興奮し高揚しエクスタシーを感じているように(そう読者が読み解けるように)描かれている。とは言え、全体としては、皮肉めいた口調で妙なエピソードが次々と語られるので、黒い笑いを狙った喜劇的作品なのかもしれない。「ぼく」が自身のウィリアム叔父殺しを「芸術的残虐さ」と評しているところは、白々しいが、個人的にはそういう白々しさを狙ったところが好きだ。
データ
My Favorite Murder
- 作者: アンブローズビアス,大津栄一郎,Ambrose Bierce
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/09/14
- メディア: 文庫
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