The Figure in the Carpet

短編小説を読んだから、その感想を書いた

ルース・レンデル : タイプが違う

概要

その町では6人の若い男性が殺された。連続殺人事件が発生していた。だからバリーの母親は、息子に夜出歩かないよう忠告する。心配だから、そしてお前はいとこのロニーと違って、小柄な男なのだから、と。バリーは背の低いことにコンプレックスを抱いていた。母親は、息子が背の低いことにコンプレックスを抱いていることを重々知っていた。バリーが背の高いロニーに対してコンプレックスを抱いていることも嗅ぎとっていた。そんなバリーが、ロニーに負けないくらい「立派な男」であることを証明するために、あえて夜出歩くことも見透かしていた。私はそういうことをすべて知っているのだから……夜出歩くのはやめなさい、と息子を諭す。ただ母親は、殺された6人の被害者の写真を見て、そして、それら被害者に共通する特徴ある容貌から判断して、息子バリーとは「タイプが違う」と察していた。顔の形が、目の印象が、髪の色が、そして全体の雰囲気が。だからいくぶん安心もしていた。バリーはこれまで被害にあった男たちとは「タイプが違う」のだ、と。

バリー自身も、自分は若い男ではあるが、これまで被害にあった男たちとは「タイプが違う」と自認していた。「タイプが違う」のだから、自分は被害にあわない。被害にあう心配はないのだから、夜出歩く。殺人事件の発生した場所をうろつく。バリーは自分が警察や探偵だったらこうするだろうと、夜遅く、危険な界隈を調査する。それどころか、もし自分が犯人だったら、と被害にあいそうなタイプの男を探し、求める。バリーは「犠牲者のタイプ」を研究していた。次はあの人かもしれない、いや、あのとき目星をつけていた男が前回の犠牲者だったかもしれない。素人研究によって自分は「タイプが違う」と過信したバリーは、サバイバル術を誤った。

 

感想その他

女性や子供たちとは違って、これまで夜道を堂々と歩く特権を謳歌していた若い男性が連続殺人事件の標的になる。夜の町は一変する。これまで女性や子供たちには夜出歩く権利がなかった。若い男性が犠牲になって初めてそのことが可視化される。そういう社会構造をあぶり出す小説……をルース・レンデルが中心主題に描くわけがない。

作者はひたすらバリーの背が低いというコンプレックスを抉り出す。通常ならば、大量殺人が発生している危険な界隈を偵察するというバリーの行動は不可解であるのだが、レンデルは背が低いというコンプレックスを持った男なら「そういうことをする」と力技で押し通す。背が低いというコンプレックスを持った男は「そういう運命にある」と理論づける。しかも最後、まるで傷口に塩に塗るかのように、殺人者に殺される寸前に、「チビ」という言葉をバリーは殺人者の口から吐かれるのを聞く。

 

データ

The Wrong Category

深町眞理子 訳、『熱病の木』(角川書店)所収 

熱病の木 (角川文庫―レンデル傑作集)

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