The Figure in the Carpet

短編小説を読んだから、その感想を書いた

ルートヴィヒ・ティーク : 金髪のエックベルト

概要

通称「金髪のエックベルト」と呼ばれる騎士が妻ベルタと二人でハールツのある地方に住んでいた。二人の夫婦仲は良かったが、この二人には子供が恵まれなかった。また、エックベルトには「自分がいちばん好む考え方とほぼ同じ考え方をする」友人フィリップ・ワルターがおり、年とともに、この二人の友情は深まっていった。

ワルターがエックベルトの館に泊まったある日の夜、エックベルトは「秘密」を親友に打ち明けることにした。それは妻ベルタの身の上のことだった。ベルタは二人の男性を前に自分自身について語る。

…… ベルタは貧しい羊飼い夫婦の子供だった。貧しさのためベルタの父親と母親の夫婦仲は悪かった。ベルタは不器用な子供で家計を助けることが何一つできなかった。子供心に、突然金持ちになったら、とか、妖精が宝石を運んできてくれたり、とか、奇妙な空想にふけるのだった。

無能で怠け者の穀潰し。父親からそう罵られることに耐えられなくなった8歳のベルタは家を飛び出す。森の奥深くへ逃亡する。どこまでも遠くへ。

どこまでも森の奥深くへ突き進んたベルタだったが、すぐに空腹感と人恋しさに見舞われるのは、彼女がまだ8歳だったからだろう。運よく彼女は、黒づくめの服を着て黒い頭巾で頭と顔の大半を覆い隠した松葉杖を持った老婆に遭遇する。事情を話し、老婆の世話になる。老婆の小屋には一匹の犬と一羽の鳥がいた。

ベルタは家事をし、犬と鳥の世話をする。老婆は彼女に本を読むことを教えてくれた。老婆の小屋には不思議な物語が収められた古い写本があり、それを読みことがベルタにとってかけがえのない喜びになった。

4年後、12歳になったベルタに老婆は「秘密」を打ち明けた。それは老婆の飼っている奇妙に美しい鳥が宝石の卵を産むということだった。老婆はベルタを信用して、これまで自分がやっていた、鳥が生んだ宝石を大切に保管するという仕事を12歳の少女に任せることにした。ベルタに特別な仕事を任せると、老婆は何週間も何か月も留守にするようになった。

その間ベルタは読書によって世間と人間について「ひどく変わった観念」を作り上げていた。空想をたくましくして「奇妙な話」を作り上げていた。美しく着飾り、騎士や王子様に取り囲まれている自分を空想する。ベルタは14歳になっていた。 

人間が知識を身につけると、かならず魂の純潔を失うというのは不幸なことです。 

 その通り。ベルタは老婆の留守に、宝石と宝石を生む鳥を強奪し、世にも美しい騎士との出会いを求めて「本で知った世界」へと飛び出す。

深い森を奥へ奥へ単調に進む。宝石を売って旅を続ける。そしてある村にやってくる。そこはベルタが生まれた村だった。金持ちになったベルタは両親に会おうと、かつて住んでいた家に行くが、そこには他人が住んでいた。彼女の両親は亡くなっていた。

ベルタは村を出て、別のある町に家を借りた……。

 

これがベルタの「秘密」だった。ベルタの話を聞いたワルターは、もちろん返礼する。ただしその中で、ワルターは老婆の飼っていた犬の名前「シュトローミアン」に言及した。ベルタは犬の名前を話さなかった。それなのになぜ、ワルターは犬の名前を知っているのか?

ここからティークのお話は急展開をする。ベルタは病に倒れ死ぬ──ワルターがどうして「シュトローミアン」を知っていたのかと気にしながら。エックベルトは「無意識のうちに」弩を引き、ワルターを殺す。妻と親友を失ったエックベルトはフーゴーという若い騎士に「本当の愛情を感じて」、彼と交際する。しかしエックベルトは自分でもなぜかよくわからないが次第にフーゴーに猜疑心を抱くようになる。するとフーゴーの顔がワルターに見える。フーゴーはワルターだと確信する。

エックベルトはすべてを投げうって旅に出る。旅先のある丘で、彼は背中の曲がった老婆に遭遇する。奇妙な老婆はエックベルトに「秘密」を教える。ベルタはお前の妹だったのだ、と。エックベルトは意識も感覚も遠のいていった。いま夢を見ているのか? それとも「あれ」が夢だったのか?

 

感想その他

夢の中の夢、そして「夢の中の夢」の夢……と読み解けることは、すでに誰かが指摘していると思うから、いいだろう。おそらく、ベルタ自身が知らない犬の名前「シュローミアン」をワルターが知っていたという点が、魅力的な謎解きの数々を提供してくれるだろう。

また、エックベルトとワルターの「特別な友情」および、エックベルトとフーゴーの「本当の愛情」に関しても、おそらく、どこかで誰かが議論していると思うから、これもいいだろう。

で、僕がこのドイツ・ロマン派の詩人ルートヴィヒ・ティークの『金髪のエックベルト』を読んで真っ先に思い出したのは、何を隠そう横溝正史の『悪魔の手毬唄』だった。だって頭巾で顔を覆った杖をついた腰の曲がった老婆って……「おりん」じゃん。しかもエックベルトとベルタに子供ができないのと、『悪魔の手毬唄』の青池歌名雄が村の3人の娘と結婚ができないのは同じ原因だし。それだけではなく『金髪のエックベルト』では、これから起こる事態を予告するように奇妙な鳥が歌詞付きの歌を歌うのだが(ここはロベルト・シューマンの《森の情景》の「予言の鳥」を思い出しますね)、これも「手毬唄」に見事に対応している。横溝正史推理小説も捻じれた過去の因縁話だったし、メイントリックも……。

 

データ

前川道介 訳、種村季弘 編『ドイツ怪談集』(河出書房新社)所収 

ドイツ怪談集 (河出文庫)

ドイツ怪談集 (河出文庫)